第13回:「実は、課長になるんだ」

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第13回:「実は、課長になるんだ」

2007年3月22日

「いや、実は今度、課長になるんだ。明日、辞令交付だよ」

こうなっては仕方がない。大久保は美代子に、ことの一部始終を話した。

「そう、あなたが課長さんに? おめでとう。すごいわね」

「うん、ありがとう」

大久保は、少し照れながら着替えをすませた。

シャワーから上がってくると、食卓にグラスが置いてあった。


「ねえ、ビールで乾杯しましょうよ。前祝よ」

「そうか。じゃ、明日早いから少しだけ」

「かんぱ〜い!」

「課長さんて、いつから?」

「八月からさ」

「今までよりもっと忙しくなるの? 身体に気をつけてね」

「ああ、新しいプロジェクトがスタートするんだ」

「明日はスーツでしょう。白いワイシャツ、あったかしら。支度するわね」

もう、12時に近い。子供達はとっくに眠っていた。

それでも大久保は、寝顔をのぞき込んで戻ってくると、玄関に置かれている大振りの白い花をいくつもつけた胡蝶蘭の鉢を、改めて眺めていた。

夏の早朝は気持ちが良い。

短かった梅雨は、もう明けたようだった。

「今日は、暑くなりそうだな」

大久保は、そう呟いて街道までの路地を下っていった。

五分も歩けば北鎌倉の駅に着く。古びた駅舎の改札を入ると、ホームの向こうに鬱蒼と重なる円覚寺の大きな杉木立からは、もう蝉しぐれがしきりである。

糊の効いた真っ白なワイシャツに、大久保は気持ちの良い緊張感を味わっていた。

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

筆者紹介

東京ロジスティクス研究所
重田 靖男氏

重田靖男 1941年生まれ。早稲田大学理工学部卒業。
資生堂で、物流開発プロジェクト室長、物流部長、マーケティング本部長を歴任。資生堂物流サービス株式会社社長を経て、株式会社東京ロジスティクス研究所を設立。
現在は顧問として、荷主・物流企業をコンサルティングしている。

【委員】
日本ロジスティクスシステム協会企画開発専門委員長
物流技術管理士資格認定委員および講師
日本物流学会会員

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