第11回:「サプライチェーン改革をめざして」

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第11回:「サプライチェーン改革をめざして」

2007年3月22日

大久保は、物流企画課長の西尾の机にも呼び出し状があったのを見逃していなかった。当然そうだろう。松川副社長から、「君に物流企画課長をやってもらう」と言われているのだから。だが、西尾の異動先はわからない。大久保にはそれが気になっていた。もう1つ、大久保が心配しているのは、部長の川田に呼び出しが来てはいないかということであった。

川田は、部長の席こそ未だ2年足らずだが、物流部在席期間は長い。かれこれ10年以上になる。しかし、いま彼に異動されては、大久保にとっていきなり屋根を外されるようなものだ。帰宅の電車の中で、「まさか」と大久保は疑念を振り払うように、開いていた夕刊に無理やり目を戻した。目は文字を追ってはいたが、読んではいなかった。松川副社長が仕掛けようとしている、これからのプロジェクトは川田無しでは考えられないではないか。そう思うと少し安心した。


電車は、いつの間にかもう大船駅を過ぎた。このあたりから周囲は急に灯りが少なくなる。ビルが少なくなって、住宅ばかりになるからだ。大久保の自宅は新橋から横須賀線で1時間ほどの北鎌倉にある。家は両親が建てたものだが、商社に勤める父親が4年ほど前に海外駐在として母親と一緒に行ってしまったから、いわば大久保夫婦は留守番役といった形でその家に住んでいる。2人の子供と4人住まいである。

電車を降りると大久保は、いつもの通り、電車が行ってしまうのをホームで見送ってから、レールを跨いで駅舎の方に渡り、もう今では滅多に見られなくなった古い木製の改札柵を出た。顔なじみの駅員が、「お帰りなさい」と声をかけてくれる。夜の11時を過ぎようという時間である。駅前の街道を右に折れると、車の通りも少ない。

大船から鎌倉の鶴が岡八幡宮に抜ける街道で、休日の昼間は決まって大渋滞だが、いまはウソのように静かである。この通りを大船方向に向かって戻るようなかたちで家路につくのだが、通りの左側は小高い丘になっていて、その奥は昔からある女学校である。大久保はいつもここまで来ると、会社であったことはすっかり忘れ、気持ちを切り替えることにしている。

しかし、今日は違った。明日が辞令交付日である。

 

筆者紹介

東京ロジスティクス研究所
重田 靖男氏

重田靖男 1941年生まれ。早稲田大学理工学部卒業。
資生堂で、物流開発プロジェクト室長、物流部長、マーケティング本部長を歴任。資生堂物流サービス株式会社社長を経て、株式会社東京ロジスティクス研究所を設立。
現在は顧問として、荷主・物流企業をコンサルティングしている。

【委員】
日本ロジスティクスシステム協会企画開発専門委員長
物流技術管理士資格認定委員および講師
日本物流学会会員

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