第9回:職人気質の弊害

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第9回:職人気質の弊害

2006年4月23日

 今回ご紹介する企業は、都心の雑踏とは少し離れた郊外に5つの拠点を持つ「地場密着型」物流企業R物流である。
 R物流は年商およそ10億円。成長著しい企業であるが、その歴史は深く創業30年以上になる。成長をはじめたのは最近十年であり、それまではどこにでもある地元の物流企業であった。昨今の成長の理由は、他社にはない「顧客満足」を提供できるサービスを創出したことによるものだった。つまり、顧客に対して「高付加価値」物流を実践したことで成長した企業である。その成長の経緯をお話しながら、物流企業の「高付加価値」について考えてみたい。


 R物流は元来、建築資材卸企業B社に密着する形で事業を展開しており、売上構成比は80%を越えていた。主な業務は、早朝、前日夜積みした荷物を各建築現場へ配達、その後B社のセンターに戻り、午前出荷分を積込んで配達、戻って翌早朝分の夜積みという毎日の繰り返しであった。
 建築資材配送は宅配やセンター納品とは違い、荷物が異型であることが多く、重量物も多い。さらに、建築現場であるため、フォークリフトなどがある現場は皆無だ。全てドライバーの手降ろしになる。このような過酷な業務内容から、R物流のドライバーは建築現場の職人にも劣らない『職人気質』な集団になっていった。
 ある年、B社では新しいサービスの展開を狙っていた。それは、従来から在庫管理から現場納品までを取り扱っていた空調や電化製品の「取り付け作業」の請負である。そこで、ほとんどB社専属で業務を行っているR物流に白羽の矢がたった。B社からの要望は、「配送コースを細分化し、増車することで一台当たりの配送件数を削減しても構わない。そのかわり、ドライバーが空調などの電化製品の取り付け作業を行えるようにして欲しい」とのことであった。ほとんどの売上をB社から上げていたR物流にとって、この要望を断ることなどは絶対にできない。しかし、逆に考えれば増便だけでなく、取り付け作業による付帯業務料金も別途徴収することができるのである。売上が伸び悩んでいたR物流にとってはおいしい話であった。
 それからのR物流の取り組みは鬼気迫るものがあった。各種許認可の取得、B社との契約内容の見直しやサービスリリース準備、何より大変だったのがドライバースキルの向上である。前述の通り、これまでの業務内容から職人気質な集団になっていただけに、業務内容の大幅な変更には難色を示した。しかし、R物流Y社長の熱い密着指導でドライバー各人も前向きに作業の習得に取り組み、サービス開始に間に合わせた。

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

筆者紹介

株式会社日本ロジファクトリー
青木 正一氏

青木正一 1964年11月13日生まれ、京都産業大学経済学部卒。
学生時代に数々のベンチャービジネスを行い、卒業後、ドライバーとして大阪佐川急便入社。1989年株式会社船井総合研究所入社。物流開発チーム・トラックチームチーフを経て、コンサルティングでは対応できない顧客からの要望を事業化するという主旨で1996年“荷主企業と物流企業の温度差をなくす物流バンク”をコンセプトに、物流新業態企業「日本ロジファクトリー」を設立。代表取締役に就任。

 主な事業内容として「現場改善実務コンサルティング」「物流専門人材紹介(ロジキャリアバンク)」「物流情報システム構築サポート(ロジシステムデザイン)」を行なっている。
また、物流業界におけるコンサルタントの養成、人材の採用、育成、M&Aといったプロデュース業務も手掛けている。
最近では、産業再生機構からの要請を受けるなど、「物流再生」に力を入れている。

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