第103回:郵便自由化の実現を

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第103回:郵便自由化の実現を

2006年10月29日

 小泉純一郎首相の「郵政選挙」での歴史的大勝利により、07年には「民営郵政」が誕生する。「郵政選挙」では郵政民営化が争点となり、民主党などの野党は、この小泉式のイエス・ノーの二者択一型アプローチの前に有効な対案を提示できず惨敗した。だが現在の郵政民営化の政策論争には重要な視点が欠落している。それは「郵便自由化」。本来ならば郵政民営化と並行するかたちで行われなければならない重要なテーマだ。
 郵便自由化については、郵政民営化と混同されて論じられることはあった。選挙期間中、郵便自由化問題について正確に指摘し、郵政民営化法案との関連で言及した経済人、政治家は残念ながらひとりもいなかった。単に郵政を民営化するだけでは民間の宅配便企業の売り上げ、収益を奪う「民業圧迫」につながる恐れが出てくる。公務員数がどれだけ減ろうが、宅配便企業など民業が圧迫された状態では郵便分野における多大な経済効果は期待できない。郵便事業に民間企業が参入できる自由な環境を構築する必要がある。


 日本の郵政改革の先を行くかたちで、欧州では郵政民営化の大前提として、郵便自由化の流れが本格化している。例えばスウェーデン、フィンランドなどの北欧諸国では郵便書状の重量や料金にかかわらず、リザーブド・エリア(留保領域)なしの郵便市場の開放、郵便自由化がすでに実現している。

 またEU(欧州連合)加盟大国の郵便事業体の株式上場、国内外の物流企業の買収、各国の郵便事業体による合従連衡の動きも加速している。EUでは郵便事業を国営で行うか、民営化するかについては、それぞれの加盟国の判断に委ねている。ただし、各国の郵便市場の規制を取り払い、国内外の郵便・物流企業にもオープンにする必要があるというスタンスを明確にしている。欧州郵便市場統合を実現するために、欧州域内における郵便事業の独占を許さず、自由競争の全欧規模のマーケットを確保するためには、各国レベルでの郵便自由化が不可欠というわけである。

 しかし日本では、民間宅配便企業が郵便事業に参入するには、多大な数のポストを全国に設置する必要があるなど、不条理としか思えない参入制限が設けられている。その一方で日本郵政公社や、近い将来誕生する「民営郵政・ジャパンポスト」にはヤマト運輸など、民間が独自に開拓してきたコンビニ経由の配送網の横取りが許されてきたわけである。

 郵政民営化を実現しても、民間企業との競争市場が構築されなければ、進歩も技術革新も経済活性化も進まない。「民営郵政」が郵便事業を独占したままで宅配便市場や企業物流市場、国際物流市場への事業展開を強化するのは、自由主義の原則を考えれば「アンフェア」といわれても仕方がないだろう。郵政民営化を行う限りは、その逆のベクトルについても市場をオープンにする必要があるのだ。

 民間諸企業との競争に全くさらされない環境で、はたして「民営郵政」がドイツポストなどの世界の郵便巨大企業と五分に戦えるのかどうかはなはだ疑問でもある。日本の郵政事業改革の終着点を郵政民営化と考えては、問題の本質を見誤ることになるだろう。

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

筆者紹介

鈴木 邦成氏(すずき・くにのり)

鈴木邦成 物流エコノミスト・日本大学教授
国際政治経済、国際文化に関する造詣が深く、記事・論文・著作多数。
欧米諸国の地域経済統合の流れを、物流・ロジスティクスの観点から追求している。
国際物流に関するセミナーやロジスティクスに関する講演会での講師歴は多数。

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