第62回:定額残業制を導入するためには(2)

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第62回:定額残業制を導入するためには(2)

2015年9月24日

 前回は定額残業制を導入する上での形式上の注意点についてご案内しました。しかし、形式が完璧であっても運用を適正に行わないと、定額残業制が否定される可能性があるのです。


 昨年3月、定額残業制について判決とは別に、裁判官から補足意見が出されました。その補足意見は、定額残業制を導入するには次の要件を満たしていることが必要との内容でした。


 (1)雇用契約書などの書面にあらかじめ支給する残業代の時間数が明確に記載されていること(2)給与明細にあらかじめ支給する残業代の時間数と金額が記載されていること(3)あらかじめ支給する残業代の時間数を超えて残業を行った場合は、差額の残業手当を支給すること。


 これまでは、就業規則と雇用契約書などに定額残業制のルールを記載し、従業員との個別同意を得ていれば、制度自体は有効とされていました。しかし、この補足意見によると、形式を整えるだけでは不十分であり、さらに厳密な運用が必要となります。


 (1)と(2)の要件であれば、形式上の問題であり比較的容易に対応することができるかもしれません。しかし、(3)の要件は実際の労働時間をカウントして、あらかじめ支給する残業代の金額が、実際の支給すべき残業代と比べて不足がないか確認を行う必要があります。さらに、不足があれば差額の残業代を支給する必要があります。


 このように、運用上でも注意を行う必要があり、導入のハードルが格段に上がるのです。定額残業制を導入している会社でも③までは行っていないという会社も多くあります。しかし、この補足意見によると、この時点で定額残業制が認められないのです。


 定額残業制を導入している会社は年々増加していますが、実態として厳密な運用管理を行っている会社はまだまだ少ないと感じます。裁判官の補足意見に法的拘束力はないのですが、この補足意見を反映してか、最近は定額残業制に関する厳しい裁判例が増えてきています。定額残業制を導入する場合、形式上のみでなく、厳密な運用も必要になってくるのです。


(保険サービスシステム株式会社・社会保険労務士・馬場栄)

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

筆者紹介

保険サービスシステム株式会社
馬場 栄氏

馬場栄

保険サービスシステム株式会社 社会保険労務士


年間約300社の経営者の相談・アドバイスを行っている。中小企業の就業規則や残業代など、幅広い労務管理のアドバイスに高い評価を得ている。

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