第72回:賃金体系変更でドライバーを14人新規採用した会社

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第72回:賃金体系変更でドライバーを14人新規採用した会社

2016年1月 3日

【質問】ドライバーの募集を出しても全く応募がなく、人手不足で本当に困っています。ドライバーの採用に成功している会社の事例があれば教えてください。


 最近は「募集をかけても人が集まらない」「全く反応がない」「もうお手上げ状態だ」との声をよく聞きます。運送業界では人手不足の波が全国に広がっています。しかし、大半の会社が採用に苦労している中、つい最近、「うちは14人採用できました」とあっさり答えられた経営者がおられました。


 その会社は地方に所在する中堅運送会社です。確かに、地元では老舗企業として名が通っており、業績も毎年堅調に推移している会社です。それにしても、私が同規模の運送会社から聞く話はいずれも採用の苦労話ばかりです。どこに違いがあるのでしょうか。


 「なぜ14人ものドライバーが採用できたのですか?」とお聞きしました。「うちも最近まで人手不足でしたが、給与の出し方を変えてから採用が増えました」との答えでした。「給与を、どのように変えて、そのことをどんな方法で宣伝したのですか?」。私は給与体系の変更内容もさることながら、給与変更の事実をどんな方法で社外に伝え、採用増加に結び付けたのか、興味をそそられました。


 その会社は、退職金制度と賞与をやめて、その分を月々の給与に上乗せして支払う方法に変更したとのことです。「退職金制度が社員の定着に効果があると思って続けてきましたが、社員に聞くと、退職金より月々の給与のほうを上げてほしいとの声が多かったのです。トータルで見れば、ほかの会社より良い労働条件だと思っていましたが、結局、社員は月々の手取り給与しか見ていません」。その経営者は社員の要望に応えて、退職金を廃止し、月給を上げる改定を行いました。定例の賞与も廃止し、決算の状況に応じて決算賞与を支払う方法に変更したとのこと。すると、地域の、どの同業者よりも高い月給になりました。高い給与は採用にプラスの効果があると考え、月例給与を前面に打ち出した採用戦略を実行したとのことです。


 ハローワークの求人票、ホームページ、チラシやドライバーによる口コミなどを使い、手取り賃金の高さを大いに宣伝しました。すると予想を上回る応募が来たとのことです。「応募してきたのはドライバー経験者ですか?」。給与に関心が高いのはドライバーの賃金相場を知っている経験者だろうと思い、質問しました。「半分は経験者ですが、半分は未経験者です」「給与で、こんなに反応が違うとは思いませんでした。採用はやはり給与ですね」。経営者の答えは少し意外でした。


 私は、最近の若者や中途採用者の関心は、職場の働きやすさや安定感などの要素が大きいと思っていましたので、正直この実態には驚きました。その経営者は歩合給のレートを従来の1.5倍に高めて、頑張る社員がより多くもらえる成果型賃金にシフトしたと言われました。「給与は仕事をやる社員の方が高くないとだめですよ」と当たり前だと言わんばかりの自信たっぷりの回答でした。


 新規採用のためには、固定安定的な給与体系のほうが良いという常識的な考え方がいかに硬直的な見方か、と改めて痛感しました。ただし、その会社は労働時間管理を極めて厳格に実施しており、極端な長時間労働がありません。一部、長距離輸送もありますが、大半は地場中心です。


 ほかの運送会社に比較して労働時間が短いという点も好感されて大量の採用につながったものと思います。採用を増やすための方策は様々ありますが、固定観念にとらわれず工夫して実行することが必要だと思います。


(三井住友海上経営サポートセンター長・中小企業診断士・証券アナリスト・日本物流学会会員・小山雅敬)

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

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筆者紹介

コヤマ経営
小山 雅敬氏

小山雅敬

昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。

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