第77回:交渉しないと運賃は変わらない

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第77回:交渉しないと運賃は変わらない

2016年3月14日

【質問】最近、同業者から「運賃が上がり始めている」と聞きますが、当社の荷主は全く運賃を上げるつもりがなさそうです。人手不足や燃料などコスト高で運送会社の経営環境が厳しいことは理解しているようです。他社はどのように運賃の値上げ交渉をしているのでしょうか?


 以前、ある運送会社から運賃に関する相談を受けました。その会社は車両20台程度の運送会社です。先代社長の頃から長く続く荷主の仕事が採算割れで、業績低迷の要因になっているという悩みです。


 「車両別原価を見せてください」と伝えると、「細かいデータは把握していない」とのこと。「ただ、この仕事が赤字であることは確かです」と言われました。「それでは交渉が出来ないので、3か月間、車両別原価を掴んでください」と依頼し、車両別原価表の作成方法をアドバイスしました。


 後日、原価を見ると、その荷主に入っている車両だけ全く限界利益が出ていない状態で、毎月大幅な赤字を垂れ流している状況でした。「取引をやめる覚悟で運賃交渉をしてください。『運賃に関するお願い』の文書を原価とともに提示してください」と、依頼文書の作成方法をアドバイスしました。文書に驚き、最初は渋っていた荷主も、取引解消を覚悟の上と聞き、結果として運賃の大幅なアップを容認してくれました。その荷主にとって、運送会社は物流を支える大事なパートナーだったのです。荷主は運送会社の経営環境が厳しいことは承知していました。しかし、荷主側の経営事情もあり、「いつ言ってくるか」と思いながら従来通りの運賃を続けてきた、というのが実態でした。


 現在、アベノミクス効果が大企業を中心に徐々に現れており、不況時の荷動きと様相が変わってきました。一方、極端な人手不足が急速に同時進行しています。荷主は物流網の安定的な確保が至上命題になり、従来の運送会社への対応を転換しなければならなくなりました。


 一部ではありますが、下請けからイコールパートナーへの転換が進みつつあります。荷主にとって物流コストの上昇は困るが、物流が停滞することはもっと避けなければなりません。中小運送会社の経営は厳しさを増していますので、今こそ運送原価を明らかにして堂々と交渉をする時期です。


 ただし、私が知る限り、積極的に運賃交渉に取り組んでいる会社はまだまだ少数です。長年続いた荷主従属型の体質は急には転換できないようです。つい数年前まで、「この運賃でやらせてほしいと言う運送会社はいくらでもいる。嫌なら他にお願いする」と言われ続けた記憶を消すことは難しいのかもしれません。


 しかし、交渉しないと何も変わりません。私は二十数年前まで都市銀行に勤めていました。ある支店では融資の役務者を務め、取引先との金利交渉などもよく行っていました。その経験からしても企業間の交渉ごとは全て同じ原理原則だと思います。「請求してこないなら検討しない」「請求事項に道理があれば、検討する」です。これは身近な社会保険に関しても同様です。各種年金などは原則として請求しないと支払われません。「あなたは請求できますよ。早く手続きしてください」という案内はありません。各種助成金などもそうです。ことに企業間の交渉では不利益を被る方から積極的に声がけしてくれることなどありません。双方が利益確保に必死なのです。


 利益を減らすための社内手続きなど、社内評価を下げる仕事は誰もやりたくないのです。荷主の担当者も同様だと思います。運送会社の側から実態を説明し、理解を得る努力をしなければ何も変わらないでしょう。そして、原価を正確に把握することが、その出発点になるのです。原価内容の裏付けもデータで十分説明できるようにしておきましょう。


(三井住友海上経営サポートセンター長・中小企業診断士・証券アナリスト・日本物流学会会員・小山雅敬)

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

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筆者紹介

コヤマ経営
小山 雅敬氏

小山雅敬

昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。

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