第73回:安全と業務改善 社員を育成する勘所

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第73回:安全と業務改善 社員を育成する勘所

2016年1月17日

【質問】社員数70人の運送会社です。安全教育やマナーの向上など社員の育成に取り組んでいます。期待通りに行動してくれる社員もいますが、研修への参加や業務の改善に消極的な社員もいます。社員の育成に成功している会社は、どのような進め方をしているのでしょうか?


 私が知る全国の中堅運送会社では、社員教育に力を入れている会社が近年特に増えています。どの会社も決して余裕があるわけではなく、経営環境も厳しい中ですが、以前にも増して真剣に取り組んでいます。


 社員教育に従来以上の時間とコストを費やすようになった背景には、安全や業務品質に対する社会の要請が急速に高まったことがあります。また、人手不足の影響で、運送業務に不慣れな未経験者を迅速に育てる必要性があることも要因の一つです。今、人材の育成は運送会社が存続するための絶対必要条件になっています。


 社員教育の方法は、対象社員の育成段階や育成目的により決まりますが、一般的によく見られる方法は、(1)わかりやすい作業手順書の作成と日常での業務指導(2)安全管理や業務改善に関する集合研修(特に事故事例やドライブレコーダーによるKYT研修など)(3)主に管理職や監督職を対象とした階層別の研修(マネジメント研修、社外研修派遣など)(4)小集団活動の推進(事後防止、業務効率化、コスト削減など)(5)目標管理制度の新設と運用(処遇制度との連動)などが挙げられます。


 私の経験では、特に(4)と(5)を組み合わせ、同時に社内表彰制度も実施している会社が目覚ましい育成効果をあげているように思います。


 社員の育成に成功している地方の中堅運送会社(社員数約200人)の事例をご紹介します。その会社は社員のあいさつやマナーが大変素晴らしく、しっかりとした教育が出来ている会社です。社内に一歩入れば、来客応対が他社とは全く違うとわかります。事故は少なく、保険の優割は常に最高レベルを維持している会社でした。


 しかし、社長と話をすると「全員が出来ているわけではないので。まだまだですよ」と、満足していない口ぶりです。現状にまだ満足していないことに、改めて社長の社員教育に対する強い思いを感じました。社長は「自分がいらなくなる会社を目指している」と話していました。社長がいなくても回っていく会社です。「そのために全員が自分で考え、行動する会社にしたい。早く引退するのが私の目標」と語る社長が最も力を入れている教育は、「基本的な心構え」とのことです。


 自分たちの仕事が持つ「社会での役割と存在価値」、そして「この会社で働くことの意味」を繰り返し伝えるそうです。朝礼やミーティング、月1回の全員会議、グループ活動発表会などの場で、しつこいほど言っているとのことです。これを「会社の風土にしたい」とのこと。「社内に浸透させるための工夫は?」と尋ねると、「難しいことを言わない」との答えです。


 社員の育成で心掛けているのは「わかりやすさ」「やる気を引き出すこと」「できた社員を全員で称えること」の三つ。特に重視しているのは「スピード」とのことです。「やるべきことをすぐやる。何かあればすぐに報告し、機敏に行動する。自ら考えて行動できる社員を育てたい。文章など下手でもかまわない。記録は管理者がうまく書けばいい。そのための管理職」。


 また、「人を動かすのに一番大事なことは、信頼して任せること。うまくいけば全員で喜び、ほめる。そんな会社を作りたい」と熱く語っていました。この思いが浸透すれば、近い将来、社長が目指している通りの会社になるでしょう。


 「社員は自分では一歩先に踏み出さない。踏み出しやすい環境をつくることが社長の役目」という経営者の言葉に社員教育の勘所があるのでは、と感じました。


(三井住友海上経営サポートセンター長・中小企業診断士・証券アナリスト・日本物流学会会員・小山雅敬)

 

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筆者紹介

コヤマ経営
小山 雅敬氏

小山雅敬

昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。

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