第70回:事業継承対策から目をそらす社長が会社を潰す

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第70回:事業継承対策から目をそらす社長が会社を潰す

2015年12月 5日

【質問】会社を創業して20年。今年で57歳になりました。そろそろ次の世代にバトンタッチする時期を考えなければ、と思い始めています。息子が1人いますが、地元の企業に勤める会社員です。いつか話し合おうと思いながら、なかなか話を切り出せないまま今に至っています。健康には自信があり、あと10年程度は社長を続けるつもりです。事業承継の準備は、いつごろから始めるべきでしょうか。


 結論から申し上げると、既に準備を始めていなければならない時期だと思います。少し遅いぐらいだと認識すべきでしょう。事業承継に関する相談は、当方に寄せられる経営相談の中でも労務相談と並び、大変多い相談事項の一つです。


 早々に準備を開始してうまく引き継いだ会社がある一方、かなり遅い時期に検討を開始し、結局、後継者が決まらないまま、先が見えずに頭を抱えている会社もあります。後継者と真剣に話をしたことがなく、お互いに遠慮しながら話を切り出せない経営者もいるようです。


 事業承継対策は大きく分けると、(1)後継者の決定とスムーズな経営承継のための後継者育成、社内体制整備(2)自社株対策や納税資金準備などの対策、の二つに分けられます。


 (1)は会社を存続させるために最も大事な後継者の育成に関する問題です。対策は早ければ早いほど良いと言えます。(2)は主に税理士などの専門家がアドバイスしている分野です。親族間で無用な争いを生じないように、また引き継いだ者が納税の負担で破綻しないように準備しなくてはなりません。こちらは持ち株状況などによりケースバイケースですが、対策に長期間を要することが多く、やはり想定される承継時期の10年前ごろから準備を始めるべきでしょう。


 (1)の後継者の決定をなぜ早くすべきかというと、対策の方向性がそれによって決まるからです。親族に継がせるのか、親族の誰に継がせるのか、幹部社員に任せるのか、社外に任せるのか(M&Aを含む)、を早い時期に決めておく必要があります。社長一人が腹の中で決めていても、想定通りにいかないことがよくあります。後で慌てても間に合わないことがあります。また、親族に承継する場合は、スムーズに経営をバトンタッチする準備が欠かせません。経営能力は自然には身につかないからです。社内外の信頼を得られるように育てる準備期間が必要です。


 多くの経営者は体に自信があるうちは自分で経営しようと考えています。しかし、病気や事故は突然やってきます。自分がリタイアした後も安定した経営ができるように準備するのが経営者の重要な役割です。社内の制度を整備し、後継者と幹部社員を教育しておく。特に、経営理念と経営方針を十分に共有し、経営者が代わっても会社を取り巻くステークホルダーの信頼が変わらない会社を作り上げておく必要があります。


 私が以前、相談を受けた運送会社で、とても悲惨な状態の会社がありました。先代社長が事業承継対策を全く行わないうちに急逝し、商社のサラリーマンだった長男が急きょ継いだため、納税資金や借入金の処理に翻弄され、取引先との対応にも大変苦労した結果、長男は体を壊してしまいました。それを見た社員は不安になり、退社する人が続出しました。


 一部の古参社員が長男を支えて会社の存続に力を尽くしていましたが、長男の気力は続かず会社をたたむ方向で検討していました。「もう体力が続きません」と涙ながらに相談された経験があります。


 会社は継がせる方より、継ぐ方が何倍も大変なのです。社長が元気なうちに後継者を育てていれば、こんな悲劇はなかったと思います。事業承継対策から目をそらす社長が結果的に会社を潰すのだと思います。


 ご質問の会社は「健康には自信がある」とのことですが、早めに話し合いをして、準備を進めるべきでしょう。


(三井住友海上経営サポートセンター長・中小企業診断士・証券アナリスト・日本物流学会会員・小山雅敬)

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

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筆者紹介

コヤマ経営
小山 雅敬氏

小山雅敬

昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。

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