第62回:頑張っても頑張らなくても同じ給与の弊害

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第62回:頑張っても頑張らなくても同じ給与の弊害

2015年8月18日

【質問】当社は過去に賃金の問題が発生した際、思い切ってそれまでの歩合型給与を撤廃し、基本給中心(その他に家族手当、通勤手当、時間外手当)の給与体系に変更しました。その後、だらだらと仕事をする社員が増えた気がしています。もう一度、給与体系を改めたいのですが、再度改定しても大丈夫でしょうか?


 給与体系を再改定すること自体は、社員の同意があれば問題ありません。むしろ経営上不都合な状況であれば、早めに再改定を検討するべきでしょう。賃金の問題点を一部指摘された途端、「これではいけない」と運送会社に全く合わない給与体系に180度変えてしまう会社がよく見られます。違法な点を見直し改めることは必要ですが、あくまでも法令順守の観点が必要なのであり、給与体系をメーカーのような固定給型に変更することを求められているわけではありません。


 ドライバーへの意識調査でも明らかですが、運送会社で働くドライバーが最もやる気をなくすのは、頑張っても頑張らなくても同じ給与というケースです。ドライバーという仕事に誇りを持ち、家族との生活を守るため、子供の幸せを願って精いっぱい働く彼らにとって、頑張れば報われるという点が大きな励みになっているのです。報酬に対して敏感になるのは至極当然のことです。


 例えば、会社の業績が厳しいため、社員の給与がなかなか上がらないというのは、ある程度我慢ができますが、自分よりサボっている社員のほうが高い給与をもらっているのは到底許せないという声を聞きます。彼らは「全員平等」な給与より、「貢献に応じて公平」な給与を望んでいるのです。頑張れば報われる給与でないとやる気が起きません。


 時間をかけて作業したほうが給与が上がるという体系では、真のプロドライバーは納得できないのです。適正な業績給や評価の運用が効果的なのは、運送部門の給与の特徴といえます。これは現役社員ばかりでなく、定年後再雇用の社員についても当てはまります。


 高齢者雇用の進展で、定年後再雇用の社員に対して一定額の低い固定給にしている会社が多く見られます。その大半は在職老齢年金と高年齢雇用継続給付の調整で決めているケースですが、これが最近、大きな弊害をもたらしています。


 ドライバーとしての経験や生産性の違いを無視して高齢者を「平等」に引き下げたため、頑張っても同じ、若手へのスキルの伝達も行われない、という弊害が顕著にあらわれてきました。高齢者雇用の場合も評価と業績給(ウェイトは下げますが)の維持が必要不可欠です。人手不足が加速する中、高齢者を戦力化できない会社は衰退するしかありません。仕事に対する社員のモチベーションをいかに維持し、高めていくかが、これからの勝ち残り策になります。


 業績給については「過労につながり望ましくない」との主張も一部に聞かれますが、今は完全歩合が横行していた過去の時期とは様変わりであり、都市伝説のような主張と言わざるを得ません。


 私が22年間にわたり3000社以上見てきた運送会社の実態は、決してそのような短絡的な関連性はありません。過労や事故が多い会社の共通点は端的に言えば、時間管理を含む労務管理の未熟さと安全教育、指導体制の欠如にあるのです。業績給自体の問題ではありません。業績給はコンプライアンスの観点を充足すれば全く問題ありません。社員のやる気を引き出し、かえって無駄な時間を省いて作業時間の短縮につながることもしばしばあります。


 ご質問の会社が再改定を検討する場合は、元の歩合給に戻すのではなく、より合理的な体系を吟味して作られると良いでしょう。


(三井住友海上経営サポートセンター長・中小企業診断士・証券アナリスト・日本物流学会会員・小山雅敬)

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

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筆者紹介

コヤマ経営
小山 雅敬氏

小山雅敬

昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。

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