第113回:労働環境改善のために「多能工化」を進めよう

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第113回:労働環境改善のために「多能工化」を進めよう

2017年9月 4日

【質問】わが社では現在、社員の労働環境改善に向けて「労働時間削減PT」を設置し、取り組みを開始しています。どのような点に留意して進めればよいか、他社の事例を教えてください。


 ある中堅運送会社で、年初から社内に「適正化推進委員会」を立ち上げ、労働時間の削減を進めている会社があります。年度内に社員全員の残業時間を月80時間以内に抑えることを目標にして活動しています。その会社は、地場から長距離まで多種多様な業務を行っており、保有する車種も小型車からトレーラまで多彩です。業務によっては常時60時間以内の残業に収まっている部署がある一方、業務の特殊要因により、複数の部署で常時80時間を超える残業が発生しています。


 私は、その会社に毎月訪問し、委員会のメンバーと話し合い、具体的な削減策を検討するとともに実行状況と削減効果を確認し、次の展開に向けた議論を行っています。その中で痛感するのは「ドライバーの多能工化」を社内ルールとして組み込むことの大切さです。トラック運送業の業務には、作業内容の特殊性などから相当の熟練度が要請される仕事が必ずあり、その仕事は決まったドライバーに任せがちです。ドライバーも自分しかできないと認識しており、長時間労働もいとわず頑張っている社員もいます。


 委員会メンバーで残業80時間を超える社員を個別にピックアップし、対策を検討した結果、熟練度を要請される一部業務についても、ローテーションで配車を組み換え、1週間ごとに交代させて慣れさせることにしました。すると、明らかな労働時間削減効果が生じました。現場の配車係は荷主からの高い品質要請と時間的要望に応えるため、仕事が出来る社員に任せがちです。一時期でも効率ダウンを避けたいのです。


 しかし、労働環境改善のためには、目先の効率を優先するか、労働時間抑制を優先するかの選択が必要になります。長期的な視点でトップが決断し、社内に明確な指示を出すことによって、初めて価値観の変化や方向性の統一化が図られます。「多能工化」は意識して取り組まないと進まず、管理者の指示だけでは浸透しません。「多能工」の社員を評価し、処遇する仕組みを社内に取り入れ、複数業務をこなせる社員を「マイスター社員」として優遇するルールが望まれます。価値観を社内に浸透させるには、それを根付かせる仕組みが重要です。労働環境改善と賃金制度や人事評価制度は密接に関連しています。


 「被災地の市役所職員が救援物資を山積みにしているのを見て、なぜ、物流会社の人間に任せないのかと憤りを感じる。物流の素人がいくら集まっても捌けるはずがない。一刻も早く配らないといけないモノばかりなのに、在庫として滞留させている。フォークリフトも入れない体育館に並べる非効率さも理解し難い。物流マンが指示を出して職員が動くルールを平時から作っておくべきではないか」(茨城県の倉庫会社社長)


(コヤマ経営代表 中小企業診断士・日本物流学会会員・小山雅敬)

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

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筆者紹介

コヤマ経営
小山 雅敬氏

小山雅敬

昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。

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