仕事の見える化(長尾一洋・著、中経出版)

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仕事の見える化(長尾一洋・著、中経出版)

2009年9月 3日

 中堅・中小企業の経営改革を手がけるNIコンサルティング(東京都港区)の長尾一洋社長が提唱する「可視化経営」。「本来見えないものを見えるようにする」というのがコンセプトで、この考え方を体系的にまとめたのが「仕事の見える化」だ。


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「生産現場や物流にも言えることだが、いわゆる『現場』の見える化はだいぶ進んでいるが、そうでない部分はまだまだ遅れている」

 それでは、同氏の言う「現場業務以外の部分」とは何か。同著では、「会社の未来」、「社員の頭のなか」、「顧客の頭のなか」の3つに分けて論じられている。まずはじめの、「会社の未来」についてだが、「20年後、どんな会社になっていたいか」という「ビジョン」を掲げるというもの。この時、社員にはあわせて「人生目標シート」を書かせる―というのが興味深い。

「いまの20代の20年後はまだ40代。『あと10年頑張れば良い』という50代とは訳が違う。そこで、『家族』や『欲しいもの』など個人の欲求と会社のビジョンをすり合わせることで、『いっしょに会社を作っていこう』という目標への切実さやリアリティも出てくる。これは、『あの社員とこの社員がいて会社が成り立っている』という規模の中堅・中小企業にこそ大切な考え方」

 「誰だって明るい未来が見える会社にいたい」というのが同氏の意見だ。

「経営者が『食いつなぐため』と言っているようでは、従業員は明るい期待は持てない。危機感をあおるのは逆効果。特にいまは厳しい経済状況だが、だからこそ『こういう会社をいっしょに作ろう、そのために手伝ってくれ』と働きかけることが重要」

 かくいう同氏も、約80名の従業員を抱える会社の社長を務めている。「ビジョン」は、「現在2000社の同社サービス利用事業者を、40万社へと増やすこと」だという。

「確かにとてつもない数字だが、達成のためのプロセスも見せることで『できそう』と思ってもらえるようにする。そして、ただやみくもに『やれ』と言うのではなく、『やればどうなるのか』という『意味』も合わせて伝えることで、従業員のモチベーションも湧いてくる。いまの時代、意味や価値、目的が見えないと、人はなかなか動かない。『仕事なんだからやれ』で指示が済んでいた時代はもう古い」

 一方、「社員の頭のなか」、「顧客の頭のなか」は、あるツールを活用することで見えるようになるという。それが同社のコンサルティングツールともなっている「見える化日報」だ。紙ではなくメールによるもので、「商談(業務)内容」や「日々の記録」を詳細に記すことが義務付けられる。これだけだと普通の日報と変わらないが、商談(業務)については「事実」、「推察(商談中に感じたこと)」、「次回(次回どのようなアクションを起こすべきか)」、日々の記録については「(上司に対する)報連相」、「成功・失敗」、「対策(発生している問題に対して、自分が考えている対策)」を逐一書かせる。

「これまでの日報は『サボっている奴はいないか』を探すためのものだった。しかし、(『見える化日報』を活用し)社員が頭を使って、日々の業務の『背景』や『予測』まで書くようになれば、それを読む上司もアドバイスがしやすくなる。さらにその上の上司も、部下がもし間違ったアドバイスをしていたら、早い段階で軌道修正をかけることができる」

 メールで蓄積しておけば、顧客データベースとも活用が可能であり、部門間での連携や、顧客のスムーズな引き継ぎにも役立てることができる。ただし、けっして「日報ですべて事を済ます」ことを目的としているのではない。

「部下の置かれた状況が把握できれば、『何か困っているのか?』と一歩踏み込むきっかけとなり、そこから会話も生まれる。最近はメンタル的な問題を抱える社会人も多いが、そういったトラブルも、日々の日報のなかから予兆を察知できるはず」

 すでに2000社に導入されているという同社のメソッド。しかし、同氏は「導入しても、何かが劇的に変わるというものでもない」とも付け加える。

「大切なのは、ちょっとした日々の活動の積み重ね。ビジョンの共有や日報もそのひとつ。お金やモノだけではなく、そもそも会社のコアである『人』を大事にすることで経営もうまくいくはず」

▼「仕事の見える化」長尾一洋・著、中経出版、1300円(税別)

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※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

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筆者紹介

株式会社物流産業新聞社
記者M

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