【第10回】始末書に虚偽の事実

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【第10回】始末書に虚偽の事実

2009年7月27日

A物流運輸の佐藤課長は、顧客とトラブルを起こした鈴木さんに始末書の提出を求めましたが、鈴木さんは、始末書に虚偽の事実を記載しました。佐藤課長はどう対応したらいいでしょうか?


 労務管理実務上、始末書の提出を求めることがよく行われます。始末書を提出させることで、本人の反省を促し、不祥事などの再発を予防し、職場の秩序を回復することが目的であると思われます。

この「始末書」ですが、懲戒処分(特に懲戒解雇処分)について、訴訟で争われる場合に問題になることを知っておいてください。

裁判所は、懲戒処分の有効性を、
(1)非行事実(懲戒事由に該当するとされる事実、横領の事例であれば、横領があったかなかったか)の有無、
(2)処分の相当性(行為と懲戒処分のバランスがとれているか、行為に対して処分が重すぎないか)、
(3)手続きの相当性(処分する際、言い分を聞く機会を与えたか否か)を踏まえて判断します。その際、本人の書いた始末書の記載が証拠として問題となります(主に非行事実の有無の認定に用いられます)。


 そのため、始末書には、誰が、いつ、どこで、何を、どうしたのかを明確に記載させなければなりません。始末書によっては、「この度は、私の不祥事について、ご迷惑をおかけしました。深く反省しております。」などの文言を見かけますが、「不祥事」とは何か、具体的に明確でなければ、始末書の意義は全くありません。

 それでは、始末書の虚偽の記載についてはどう対応したらいいのでしょうか?
このような場合、使用者が従業員に始末書を書き直すよう命じることがよくありますが、始末書の記載が虚偽であるからといって、突き返すのではなく、虚偽の記載のある始末書のコピーを取るなどして、書き直させるべきです。

 使用者が、始末書の記載が虚偽であると証明できるような証拠がある場合、始末書の虚偽の記載は、本人が反省していないことの証拠になりますから、始末書の記載を根拠に、当初想定したものより重い懲戒処分を科すこともできます。使用者が、始末書の記載が虚偽であると証明できるような証拠がなければ、関係者に聞き取りをするなどして、裏付けをとらなければなりません。始末書のみを根拠に懲戒処分に踏み切ることは避けるべきです(特に従業員の身分に関わる懲戒解雇については慎重に対処してください)。裏付けがとれれば、始末書に虚偽の記載があっても、懲戒処分に踏み切ることは可能です。

※本記事はこれまでに「物流ウィークリー」本紙に掲載したものです。内容は記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
 

筆者紹介

向井蘭弁護士

向井蘭 労働組合問題など使用者側の労務問題を主に取り扱っている。
モットーは、企業と従業員のハッピーな関係を追及すること。
経営者側の労働問題に関するお問合せは、「労務ネット」まで
URL:http://www.labor-management.net/

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