物流ウィークリーヘッドライン
窮すれば通ずというが、私の案じた一計はただの悪知恵にすぎなかった。さっそく「日本大学ゴム研究部部長 野口誠一」というニセ名刺をつくり、そこの社長に会いに行った。学生という身分をフルに活用、というより悪用したのである。社長は即座に会って話を聞いてくれた。
「私たちは大学でゴムの研究をしていますが、生ゴムから原料ゴムにするプロセスがいまひとつのみ込めません。社長のところではどうなさっているのでしょうか。差し支えのない範囲でけっこうですので、指導していただけませんか」
ウソがすらすらと出た。社長は私が学生ということですっかり信用し、さっそく工場長を紹介してくれた。その工場長もまた人の好さそうな男で、「学生さんですか。研究熱心ですねえ。こういうことは企業秘密になっているので、めったなことでは教えられないんですが...」と言いつつも、手取り足取り原料ゴムづくりのプロセスと、触媒の混合比率をとても丁寧に教えてくれた。
私はさっそく、その「企業秘密」を持って近所のゴム職人のところへ駆け込み、「手間賃を2倍出すから、どんどんつくってくれ」とハッパをかけた。案の定、長靴は飛ぶように売れた。浅草あたりの小売店では、ひっぱりだこの状態だった。私は学生の分際で、瞬く間に分不相応の大金を手に入れた。そして、それをまた分不相応につかった。
私が「ひょっとしたら、俺はとてつもない商才があるかもしれない」と、うぬぼれたことは言うまでもない。が、このとき、私の高慢体質と放蕩体質も形成されてしまったと言っていい。学生の身が詐欺まがい、産業スパイまがいの一計で大金を手にした罰というべきであろうか。この体質が以後、私につきまとったことは既述の通りである。