八起会・倒産110番

第251回:手形処理に追われて

 電話から洩れる奥さんの悲痛な訴えに、Nさんはあわてて薬局へ向かう。が、手形を振り出している以上、どうにもならない。

 Nさんは有り金をかき集め、薬局の在庫を現金問屋に捨て値で売り払い、300万円をつくるしかなかった。その場はそれで収まったが、裏書きした手形が山ほどある。それがどうなっているか、まるで見当もつかない。

 そして恐るべき事態がやってきた。裏書きした手形を持って、金融ブローカーが次々に押しかけてきたのである。


 こうなっては、もはや経営どころではない。連日取り立てにくる裏書き手形を落とすために、Nさんは寝食を忘れて金策に駆けずりまわる。親戚はもとより友人、知人から借りまくり、それでも足りずサラ金を渡り歩き、それでも足りず、ついに禁じ手を余儀なくされた。

 問屋やメーカーから大量に薬を仕入れ、それを現金問屋に超安値で売り捌き、金をつくるしかなかったのである。


 こうしてもがきにもがき、ようやく手形処理を終わってみれば、Nさんは借金の山に取り残されていた。裏書きの総額は1400万円。が、息をつく暇はない。サラ金の返済は毎月やってくる。問屋やメーカーの支払いも待ったなしである。が、ない袖は振りようもない。この進退きわまったところで、Nさんは八起会へ相談に見えた。


 私は顧問の公認会計士に精査してもらったが、Nさんの経営は借金が大きすぎて、どうこうなる段階はとっくにすぎていた。それに、世はデフレのまっただなか、先の見通しも立たない。残念ながらNさんには破産の道しか残されていなかった。

 Nさんも納得したところで、八起会の顧問弁護士が会社整理に着手し、Nさんは破産を余儀なくされた。負債総額1億9000万円。Nさんはすべての財産を失った。

筆者紹介

八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
野口 誠一

【野口 誠一氏プロフィール】

昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。
わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。

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