物流ウィークリーヘッドライン
Dさんに転機が訪れたのは平成2年である。たまたま金融業者の自宅を塗装したのがきっかけだった。その日すべての作業を終え、手間賃を受け取ろうとしたところへ酒が出され、金融業者と雑談になった。その雑談のなかから、思いがけない提案がとび出した。
「そんなに仕事があるなら、事業化したらいいじゃないか。会社を立ち上げて塗装職人を雇い入れ、ガンガン稼げばいい。会社組織にすれば、法人や官庁など大口の仕事も入るようになる。カネならいくらでも貸すよ」
この金融業者の言葉に、Dさんは驚いた。いままでそんなことは考えたこともなかった。たしかに忙しいときは職人仲間に手伝ってもらったりはしたが、事業とか会社とかは念頭になかった。が、魅力的な提案である。
Dさんはその話にのった。それまでコツコツ蓄えたマイホーム資金に、その金融業者が貸してくれた500万円を加えて会社を設立。事務員1人と塗装職人を3人雇い入れた。
初年度の売り上げは1億円を超え、Dさんの予想をはるかに上まわったが、それにふさわしい利益が上がったかといえば、まったく逆。出だしから赤字決算を強いられた。
この決算にDさんはショックを受けた。1億円以上も売り上げて赤字とはいかなることか。土・日返上で働きながら赤字とはいかなることか。Dさんは納得がいかないが、それが経営である。もとより、売り上げイコール利益ではないし、経営に関する限り「稼ぐに追いつく貧乏」もある。Dさんは仕事一筋の職人気質にかたよりすぎていたかもしれない。
経営者は常に視野を広げ、先見力を養い、世の中の動きと業界の動向を的確に把握しておかなければならない。そのうえに立って決断と実行を繰り返していくのが経営者である。Dさんはその点に欠けていたかもしれない。