八起会・倒産110番

第228回:苦しみからの脱却

 平成3年、Fさんは27年に及んだ経営に終止符を打った。会社整理はうまくいったが、さっそくにも生活費を稼がねばならない。すでに55歳になっていたが、幸い声をかけてくれる友人がいて、その会社に勤めることになった。が、それがどうにもならない。

 人に使われることが、どうにも耐えがたいのである。だんだん嫌気がさし、Fさんは半年足らずで辞めてしまった。その後も何度となく職を変えるが、どこも長続きしない。

 その頃、Fさんはすでに八起会会員になっていたが、ほかの会員に比べ、不平不満、不幸感がありありと表情に出ていた。私はその原因に気付いていたが、あえて助言しなかった。

 もっと苦しまなければ、心の座標軸が動かないと思ったからである。倒産後も、社長だった頃の心をひきずっていては、生きにくいに決まっている。

 そんなある日、Fさんのほうから相談があった。毎日が辛くてたまらないという。私は、ようやくその時がきたことを感じた。

 「それはねえ、あなたが上手に会社を整理したからなんですよ。それはそれでいいことなんだけど、その分、どうしても苦労が足りない。楽は苦の種、苦は楽の種です。ほかの会員を見てごらんなさい。みんな破産したり夜逃げしたり、なかには自殺未遂と、倒産の苦しみをイヤというほど味わってきた人たちばかりです。だから反省もできるし、改めることもできるし、自分を変えることもできるんです。その分、あなたよりも幸せの近くに立っていると思いませんか」

 ここがFさんの転機になった。その後、Fさんの口からグチが消え、仕事も長続きするようになった。が、再起は遠い。Fさんが企業向けプレミアム(販促)商品の企画・販売会社の経営者に返り咲いたのは、倒産から8年後のことである。

筆者紹介

八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
野口 誠一

【野口 誠一氏プロフィール】

昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。
わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。

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