八起会・倒産110番

第208回:やり手の落とし穴

 私は常々「忙しすぎる社長は危ない」と言っている。技術が好きだから、販売が好きだからといって、社長がいつも工場や現場で忙しくしていては、経営のバランスを欠く。それは一見、社長が率先して働いているように見えながら、その実、自分の趣味に没頭しているにすぎない。それでは経営が片寄る。

 社長の最大の仕事は組織管理と計数管理のはずである。といって、社長室でパターの練習をしているような社長では、もっと困る。要はそのバランスであろう。

 今回からそうした多忙社長、趣味社長の転落と再生の事例を紹介しよう。

 Dさんは昭和63年、東京中央区に文具・事務用品の製造販売会社を設立した。主力商品はポリプロピレン樹脂で造った各種ホルダー、ファイル、キャリーバッグの類である。時にDさん50歳と、遅ればせの独立だったが、自信満々のスタートでもあった。それというのも、Dさんは事務器の大手企業で企画開発と営業を担当し、会社切ってのアイデアマン、ナンバー1セールスマンとして輝かしいキャリアを持っていたからである。

 それまではスチール事務器が主力だった会社に、プラスチック戦略を持ち込んだのはDさんである。そのプラスチックにカビが発生するとか、公害が発生するとか言われはじめるや、Dさんはすぐさまポリプロピレン樹脂に切り換えていく。

 そこにはDさんのあくなき探求心と情報収集があった。当時、イタリアで開発されたポリプロピレンに毒性がないと知るや、さっそくリサーチに乗り出し、すでにアメリカでタッパーや弁当箱に使われだしているとの情報をキャッチし、ただちに新製品の開発に結びつけていく。

 そして飛行機のなかをベッド代わりに、全国をセールスに飛びまわった。それが彼のキャリアである。

筆者紹介

八起会 会長
株式会社ノグチプランニング 代表取締役
野口 誠一

【野口 誠一氏プロフィール】

昭和5年 東京生まれ、日本大学卒業。
昭和31年 25歳で玩具メーカーを設立し、従業員5名・月商150万円でスタート。
わずか5年で従業員100人・年商12億円を売り上げるまでに成長させる。
しかし、ドルショックと放漫経営がたたり、昭和52年に倒産。自宅や工場などの全資産を処分して負債を処理し、会社を畳む。
翌53年、倒産経験者同士が助け合う倒産者の会設立を呼び掛け、『八起会』を設立。
弁護士や税理士、再起に成功した会員らが無料で電話相談に乗る『倒産110番』を開設。
再起・整理などの実務的なアドバイスや経験談を交えた人生相談を無料で奉仕している。
昭和59年 株式会社ノグチプランニングを設立し、再起をはかり、執筆活動や全国各地で講演活動を展開している。

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