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副業を認める?
2016年4月11日号

副業を認める?

有識者の考え方に疑問の声も 「生産性向上」逆行か

 「生産性の向上」という言葉が、多様な文脈で語られることが増えている。あるときには「GDP600兆円達成」の手段として、社会インフラとしての物流を担うトラック産業に向けては人材確保の原資を捻出する方策として、それぞれ言及されている。どの視点、どの文脈での生産性向上かによって、それらは真逆の方向に向かおうとしているようにも映る。トラック産業にいま必要な生産性の向上について考えた。

背景に生活苦の運転者

 「ダブルワークを推進していこうという考え方には納得できない」。近畿地方のトラック事業者はそう話す。ダブルワークとは3月、「経済財政諮問会議」の民間の有識者議員が提出した考え方の中に「副業・兼業」として盛り込まれた考え方だ。潜在的に副業を希望する雇用者が2012年時点で368万人と増加傾向にあるとしたうえで、「高い技能を生かす観点」から「積極的に兼業・副業を促進してはどうか」と提言している。
 同事業者はダブルワークに苦い経験がある。東日本大震災直後、従業員ドライバーから「生活費が足りない。もっと仕事をさせてほしい」と要望された。そのドライバーは、就いていた仕事をこなすだけでは労働時間の規制に抵触するまでには達しない。しかし、もう一つ別の仕事を振り分けようとすると1日、あるいは1か月の拘束時間を定めた「改善基準告示」に触れてしまう。抵触しない範囲で都合よく仕事が振り分けられればいいが、仕事の絶対量が減っていた当時はうまくいかなかった。

残業扱いに

 いったんは納得したドライバーは別の機会に「夜間のアルバイトを認めてください」と願い出た。就業規則で「二重就労」を禁じており、経営者は昼間の運行に安全上の支障が出ることを説いた。ここでもドライバーは引き下がった。
 経営者は「住宅ローンなど固定の借金があるドライバーに満足な賃金を出せないで、会社がダブルワークを禁止することは事実上できるはずもない」と話す。もし、禁止しても、生活に事欠けば隠れてアルバイトをすることは避けられない。「時間当たりの生産性が低下しているのは震災後の状況が変わらず、労働時間を規制した改善基準はむしろ、隠れアルバイトに導いている」と指摘する。
 こうした二重就労について労働基準法38条では、一人の労働者に関する労働時間はすべての事業場分を合算すると定める。労基署のある監督官は、もしいずれかの事業者がアルバイトと本業を掛け持ちしていることを知っている場合、別の場所で「残業」したとみなされ、残業手当が発生すると指摘する。

「労災」責任重くなる怖れ

 また、「万一、労働災害が発生した際には、超過労働を知りながらも仕事に就かせていたという理由で、民事上の責任が大きくなってしまうという判例がある」とも話している。
 別のトラック事業者は、「副業や兼業と言い換えれば、二重就労というネガティブな印象はぬぐえると考えているのかもしれないが、事実上禁止できていない二重就労をあえて進めようとする姿勢には、どうしても疑問を持たざるを得ない」と話す。

社会全体で共通認識を
最低限必要な運賃を要求


 現在のトラック産業のように、生産性が低い状態でダブルワークを本格的に推進しようとすると、労基法38条のような規制を外す以外に理解は得にくいと考えられる。経営者にとってのリスクが大きくなりすぎるからだ。トラック産業では「生産性が低いのであればもっと働け」といった形の無理な生産性向上ではもはやなく、むしろ施策によって生産性向上を誘導しようといった議論が国交省で行われている。
 省内の幹部で構成する「生産性革命本部」を立ち上げ、3月上旬に会合を開いた。資料によると、「トラックの積載率が5割を切る状況や道路移動時間の約4割が渋滞損失である状況の改善」をすることで、労働者数の減少があったとしても、物流需要をまかない切ることで経済成長は可能とする立場だ。また、昨年末に民間委員から答申された「物流生産性革命」を推進するとしている。
 生産性向上にはもう一つ、「もっと少ないサービス労務投入量に対して、もっと高額の料金をいただくようにするしかない」(労働政策研究・研修機構研究員=濱口桂一郎氏)といった見方もある。トラック産業でよくあるトラックの待機時間に関し、料金を徴収していこうといった意見が「取引環境・労働時間改善協議会」でも聞かれるようになったが、従来の価格を再帰的に観察する目を社会全体で持ちましょうという意味では同じ考え方と言える。
 「もっと働く」「政策的に誘導する」「社会の動きにする」など、生産性向上の方策にも様々な考え方があるが、あるトラック事業者は次のように話す。「社会主義ではないのでトラック運賃や料金を統一することはできないが、しかし、最低限必要なものというラインはある。そこの部分の徹底はよく言われてはいるができていなかった。現実的にできるものとして我々業者はまずそこを目指すべきだ」。