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若者が来る環境を作る 社会人硬式野球チーム設立
2016年9月12日号

若者が来る環境を作る 社会人硬式野球チーム設立

山岸運送

 人材確保に頭を悩ます運送事業者。人口が減少する中で、他業種との人材の争奪戦は、これからますます激化しそうだ。特に、若年層を確保することで、社内の活性化、永続的な企業としての安定化に結びつけたいが、運送業の求人募集への反応はシビアだ。そんな中、「待っていても若手は入ってこない。ならばこちらから動くしかない」とアクションを起こした事業者を取材した。

 静岡県島田市に本社を置き、3PL事業で躍進する山岸運送(山岸一弥社長)はこのほど、県内で6番目となる社会人硬式野球クラブチームとして、同グループの社員で構成する「山岸ロジスターズ」の設立を発表。8月中旬に会社説明会とセレクションが実施され、日本球界を代表する投手の則本昂大選手(楽天)の弟・佳樹投手(近大)や早稲田大学、駒澤大学の強豪校からも参加したことで大きく注目されている。監督には、静岡高校出身で社会人野球でも活躍した天野義明氏を招聘。来年には日本野球連盟に加盟する予定で、都市対抗や全日本クラブ選手権への出場を目指す。
 山岸社長は、設立経緯について「『物流業界の人材確保』が根本。特に若い人材に関しては、待っていても来ないという現実がある。そこで昨年から『来ない=環境を作る』に発想を転換した。物流業界の良さを伝えていくしかないということ」と話す。野球を辞めた後のことについても「全力で会社が社員として雇用し、さまざまなキャリアプランも用意している」と将来的な不安がないことも強調する。
 一般的なイメージは「企業スポーツ=コスト負担大」という図式だが、「コストが多額であれば、まずやっていない。若干の初期投資だけで、選手には社員として配送業務や構内作業員としてしっかりと働いてもらう。皆さんがイメージするほどコスト負担にはならない」と山岸社長。
 約30人が集まった会社説明会では、山岸社長自らが物流業界の現状や会社概要、業務内容、将来的なキャリアプランなどを詳細に説明。彼らの不安を払拭するために、1日の業務スケジュールも配送(地場・チルド)・作業員・事務職の職種別に丁寧に伝えた。
 勤務体系も野球との両立を可能にし、地場のルート配送を例にとると、午前5時出社(点呼・朝礼)、同5時半から同6時半まで積み込み、同7時から正午まで配送(10~15件)し、午後2時に退社し練習開始(同社大柳物流センター付近練習場)、同7時練習終了となっている。専用寮や移動用の専用バスも完備し、会社全体で支援していく。

本気で野球と仕事に打込む

 山岸社長が硬式野球にこだわったのは、日本の野球風土に由来する。「日本に硬式野球ができる会社が少ない。ノンプロに入れるのは一握りの人間。仮に硬式野球のチームがある会社にしても、社内のレクリエーションの一環という位置付け。夢を諦めたり、どうしても野球をやりたい人は軟式野球のある会社に流れていく。当社では、やるからには都市対抗を目指すことで、『本気で野球をやり、本気で仕事をする』という優秀な人間が集まる」と話す。実際に内定を蹴って今回のセレクションに応募してきた大学生が多数いるという。
 山岸社長が大卒に照準を絞っているのは、中型免許制度を考慮しているからだ。「初めは高卒も考えたが、免許制度のこともあったので、まずは大卒にチャレンジすることにした。今後も大卒を継続して確保していきたい」と話す。
 これから3年程度の流れを見ながら、チーム設立による人材確保策を一つのモデルケースとなるよう体系化したいと山岸社長は構想している。「ノウハウをほかの事業者にも広め、業界の活性化につながればと考えている」と意欲を示す。
 入社予定の約20人は、野球ができる喜びと同時に、仕事が確保されていることに大きな安心感も得た。来春からの始動が、これから待ちきれないようだ。