第138回:再起の群像 公害が倒産に拍車

 本来なら潰れていてもおかしくない会社が、なぜ生き残っているのか。そのNさんの疑問はやがて氷解した。秘密は融通手形と三重帳簿にあった。父親は仲間や業者と融通手形を切り合っては、その場を凌いで金融機関用と仕入れ専用、そして本物の3つの帳簿をつくって経営実態を粉飾し、融資と信用をつなぎ止めていたのである。

 Nさんが引き継いだとき、経営はすでに破綻していたと言っていい。Nさんに少しでも経営経験があれば、おそらく父親の死とともに会社も葬っていたに違いない。が、若さと2代目の責任がそれを許さなかった。時あたかも新工場を建設中で、それは父親の悲願であり、資金手当もついており、到底放り出すわけにいかなかった。

 Nさんは新工場を大幅に縮小して投資額を抑えたが、融通手形と三重帳簿という2つの負の遺産からは、ついに抜け出せなかった。融通がストップすれば、たちまち倒産である。それに、粉飾を明るみに出すことは父親の悪事を暴くに等しい。Nさんはズルズルと深みにはまっていく。

 融通手形は膨らむ一方で、業績もいっこうに好転しない。「頑張ればなんとかなる」と思い込んだ若さも、徐々に自信を失いかけたところへ、今度は公害問題が突発した。

 タイルの素焼きには大量のクロムやセレニウム、鉛などの有害物質を使うが、新工場ではその廃液をタレ流しにしていたのである。

 それが保健所の水質検査で見つかり、Nさんは工場閉鎖か処理施設完備かの二者択一を迫られた。が、処理施設の完備には8000万円余りもかかる。Nさんにそんな余力などあろうはずもなく、あえなく工場閉鎖となり、1億8000万円の負債を抱えて倒産に追い込まれた。Nさんが父親の経営を引き継いで7年目のことである。

2007年7月19日

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