第131回:再起の群像 消えた「焼け火箸」

 倒産によってすべての財産を失ったYさんは、奥さんと1人娘の3人で6畳1間のアパートに転がり込んだ。すぐにも生活費を稼ぐべく働かねばならないのだが、どうにも体が動かない。倒産者が1度は襲われる虚無、虚脱状態である。そんなある日、奥さんと娘さんのひそひそ話から、娘さんの奨学金まで生活費に化けていることを知ったYさんは、翌日から早速かつての受注先をまわり、仕事さがしを始めた。もともとYさんには技術があり、就職先はすぐに決まった。

 しかし、1度は「社長」と呼ばれた者にとって、他人に使われることほど辛いものはない。Yさんも例外ではなかった。毎日が焼け火箸を呑むほどに辛い。が、Yさんは「娘の奨学金にだけは手をつけまい」の一心で踏ん張りに踏ん張った。

 そんな日々が数か月流れたある日、Yさんの心にふっとある疑問が湧いた。自分は倒産したのに、なぜここの社長は倒産しないのか、その疑問である。その日からYさんの社内ウォッチングが始まった。そして痛切に思い知らされた。

 ここの社長は明確に自社の将来ビジョンを描き、そこに至る計画を具体的に示している。Yさんはショックを受けた。自分の経営とはあまりにも違いすぎる。自分の視野にあったのは見栄と儲けだけではなかったか。自分の経営には計画も目標もなく、ただの行き当たりばったりではなかったか。その思いが痛烈に突き上げた。

 そこがYさんの反省の起点となった。と同時に、いままでの焼け火箸がいつの間にか消え失せ、勤め人であることが苦にならなくなった。Yさんが八起会を知ったのは、その頃である。もう一度経営のありようを見詰め直したい、できれば再起を目指したい、その思いに駆られ、Yさんは八起会に入会し研鑽を続けていく。

2007年5月24日

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